わが国の公的年金制度は実質的に賦課方式で運営されているが、この方式の下では、少子高齢化の進展に伴い、若年世代や将来世代に重い負担を背負わせることになる。このため、現在、若者の年金制度に対する不信感が高まっており、その持続可能性が重要な問題となっている。わが国では、2004年に公的年金制度の改革が実施されたが、若者の年金制度に対する不信感が完全には拭い去れていない。さらなる抜本的な年金改革の必要性が明らかになってきている。本稿では、わが国の税制と公的年金制度の特性を取り込んだ世代重複型一般均衡モデルの数値解析を用いて、わが国の公的年金改革の方向性について分析を行った。本稿で得られた主要なシミュレーション結果は、次の3点である。 (1)まず、わが国の現行の公的年金制度で用いられている基礎年金方式と、スウェーデンの新しい公的年金制度で用いられている最低保障年金方式とではどちらが望ましいかを調べた。その結果、基本的に基礎年金方式のほうが望ましいとの結果が得られた。しかしながら、実際に社会厚生が改善するかどうかは、方式の転換に伴って発生する(一般会計から年金部門への)財政移転額の変化をどの税目によって調整するかに大きく依存することが示された。消費税は相対的に資本蓄積を促進することから、税収全体に占める消費税収の割合が高くなるような改革を行う場合に社会厚生が高まった。 (2)次に、公的年金制度が所得比例年金のみから成るケースについて考察した。その結果、効率性が高まることによる効果が期待されたが、効率性の改善はそれほど大きくなかった。また、年金を通じた所得再分配が無いことから、公平性の点で社会厚生を低下させる。その結果、この改革は社会厚生を改善しなかった。 (3)最後に、わが国における望ましい公的年金改革について検討した。その結果、もし現行のわが国の公的年金給付と同じ水準の年金制度を考慮するとすれば、公的年金を基礎年金のみに限定し(すなわち、所得比例年金を廃止する)、それを消費税により賄うことが最も望ましいとの結論が得られた。
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