わが国では2004年に公的年金制度の改革が実施されたが、この年金改革は抜本的なものとは言い難く、若年世代の公的年金に対する不信感を完全に拭い去ることができなかった。このため、さらなる改革の必要性が指摘されることが最近多くなってきている。特に、基礎年金給付の全額を消費税で賄う年金改革に賛同する有識者も多く、基礎年金の財源調達法に関して、現在、社会保険方式から全額税方式への転換が現実的な政策課題として取り上げられている。本稿では、人口構造の変化と公的年金政策が経済成長と世代内および世代間公平に与える影響を、Auerbach=Kotlikoffタイプの世代重複型一般均衡モデルを拡張した上で、シミュレーションによる数値解析を行った。 本稿では、まず、基礎年金給付を全額消費税で賄う(すなわち、社会保険方式から全額税方式に切りかえる)ケースと、それに加えて、報酬比例部分の年金を廃止する(すなわち、賦課方式から積立方式に転換する)ケースについて検討を行った。その結果、両方の改革案について、将来世代の厚生が改善する一方で、移行世代の厚生が悪化することが示された。次に、これら2つの改革案が、全体として、パレート改善を達成するかどうかを検証するために、改革案それぞれについてLSRA(Lump Sum Redistribution Authority)transfersを導入したケースについて検討を行った。その結果、両方の改革案ともパレート改善を実現しないことが示された。これらの結果は、上記の2つの改革案は、将来世代の厚生を改善するが、制度の移行に伴うコスト(すなわち、移行世代の厚生の悪化)も考慮に入れて、全体として評価すると、支持できない改革案であることを示している。このように、これらの改革案は、将来世代の厚生を移行世代の厚生よりも高くウェイト付けしない限り、経済学的には支持できないことが示唆された。
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