本研究では、まず過去における郵便貯金事業の官業ゆえの特典(税金・預金保険料の免除等)とユニバーサルサービスを含む官業ゆえの制約とを金額的に比較し、次に将来における民業補完事業の持続可能性について検討を行う。1年目の計画は過去における金額の推計と比較であり、これらをベースに最終目的である将来予測が行われる。 諸特典の金額は、全国銀行協会によれば、1992年から2001年までの間、約2千億から9千億円程度の間で推移しているが、より多くの考慮すべき要素を加えた本研究の推計では、「特典」の捉えかた次第で結果は分かれるものの、いずれの場合においても全銀協の数値を下回った。 官業ゆえの制約としては、ユニバーサルサービスの提供等の民業補完事業に加えて、資産運用面で一定の制限が存在することによる機会費用も合わせて推計する必要がある。この機会費用は、郵便貯金が全国銀行と同じ内容の運用をした場合に得られたであろう利息・手数料収益と実際の収益との差額として求めた。民業補完事業のコストは、最も多く見積もっても1千億円を超えることはなかったが、資産運用における機会費用はその10倍程度の規模で推移している。 ここまでの結論を述べれば、もし官業ゆえの制約を民業補完事業だけに限るなら、そのコストは諸特典の金額で十分賄われてこられたことになるが、制約的なビジネスモデルによる機会費用を考慮すれば、郵便貯金事業は民間金融機関に比べて不利な競争条件であった可能性が高くなる。 次の課題は、民営化後、ビズネス上の制約が少なくなる一方で特典が失われる郵便貯金における民業補完事業の持続可能性についてである。将来の様々なシナリオを考慮する必要があって郵政民営化先進国の調査が行われる。これは当初は2年目の計画であったが、現在までに過去に収集した情報やネット情報に基づく国ごとの比較研究を雑誌論文として発表、さらに08年2月27日から3月7日までニュージーランドにおける郵政民営化の現地調査を行った。
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