本年度は、インフレの産出ギャップに対する反応感応度の変化の研究を進める目的で以下のとおり実施した。 1.インフレの産出ギャップに対する反応感応度と過去のインフレ率との間の関係を実証的に分析した。この実証分析より、過去の平均インフレ率が高い(低い)国ほど、インフレの産出ギャップに対する反応感応度がより大きくなる(小さくなる)という結果が得られた。この研究成果は、Contemporary Economic Policyに"Inflation History and the Sacrifice Ratio:Episode-Specific Evidence"(共著)として発表された。 2.インフレの産出ギャップに対する反応感応度の変化について、日本のデータを用いて実証分析を行った。主成分分析により、最近の我が国におけるインフレの産出ギャップに対する反応感応度の低下は労働時間の変化によってもたらされていることが明らかになった。すなわち、まず、11の労働需給データから主成分を抽出し、賃金上昇率を主成分で回帰した。その結果、賃金上昇率は第1と第2の主成分に依存しており、また、第1の主成分は有効求人倍率として、第2の主成分は総労働時間として解釈できることが示された。さらに、賃金上昇率と第1の主成分(有効求人倍率)との間には正の相関関係が、賃金上昇率と第2の主成分(総労働時間)との間には負の相関関係があることが明らかになった。この成果は、日本金融学会、および、Western Economic Associationにて発表された。
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