研究概要 |
本研究は,資産価格に関するファイナンス理論で十分に解明されていない,いくつかの数理的問題点を解明することを目的としている.元来ファイナンス理論はその研究領域と手法の多様性から隣接分野が多いものの,その数学的手法が高度になるにつれて各分野の知見が十分に融合していない研究課題が散見される. Tanaka(2008)では,確率的に変動する金利とリスクの市場価格の環境下における最適ポートフォリオを求めた.その際に,金利モデルで用いられている手法を用いて,最適ポートフォリオの最適性に関する方程式を金利モデルに現れる方程式に置き換えることにより,見通しよく解を求めることを示した.これにより,本来,観測できない実質金利やリスクの市場価格を,観測できる証券価格等から推定し,その情報によって最適なポートフォリオを構築する手立てを得る可能性がある.そのポートフォリオには,物価連動債を含むことは可能なので,ポートフォリオ構築における物価連動債がもたらす情報の役割を追究することが次年度の課題となる. 企業価値を表す確率過程の初到達時刻を用いた企業倒産の構造モデルについては,複数の状態変数がある場合でも,測度変換により十分解析可能な枠組みを考察した.今年度はその考察結果の取り纏めに着手したところであり,近々論文として発表できる見込みである.
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