近年の研究では家計の所得分配の不均等の主な要因は(家長の)労働所得の差であると考えられており、適切な税制の構築のためには労働所得に対する課税の効果の理解は不可欠である。さらに、労働所得の課税を考える際には、人的資本投資に対して与える影響を適切に考慮に入れることが重要であると言える。しかしながら従来の人的資本投資に関する理論の枠組では説明しきれないことも多い。これに対して本研究では、教育のオプション価値を明示的にモデルに組み入れて、課税が人的資本投資に与える効果について分析を試みている。実物オプション・アプローチという新たな視点から課税が人的資本投資に対して与える影響を考慮に入れて労働所得の課税の効果を明らかにする点に本研究の意義があると言える。平成19年度においては、平成20年度に研究実施予定であるシミュレーション分析をするためのモデルを構築し、モデルの定性的な性質について考察した。平成20年度は、分析手法として定性的な分析だけではなく、より現実的な政策的インプリケーションを得るために、シミュレーション分析の手法を用いて定量的な分析を行い、労働所得の課税の効果を明らかにすることを計画している。この種の問題においては、定性的な分析だけでは、様々な可能性を指摘できるが、さらにもう一歩踏み込んだ明確な結論が出ないことが多い。より意味のある結論を引き出すためには、定量的分析に訴えなければならない。このため、より現実的な政策的インプリケーションを得るたに、実証分析およびシミュレーション分析の手法を用いた定量的な分析を行うことが必要であり、そのような分析を行う点に本研究の重要性があると考える。
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