研究概要 |
金融のコングロマリット化や金融技術の発展に伴い金融機関の健全性を市場が監視するという市場規律に関する議論が高まってきている.金融機関に対して市場規律を働かせることができる経済主体は当該金融機関の債権者であり,具体的には預金者と債券保有者である.この2つの経済主体の内でも情報生産の優位性と言う観点から債券保有者からの規律付けに期待が持たれており,特に劣後債の保有者による規律付けが最も効果的であるとされている.本年度は,このような観点も含めて市場規律の基本的な考え方をまとめ,劣後債による規律付けに関する既存文献の整理を行なった.欧米においても我が国においても,劣後債による規律付けが効いている結果が出ている,また,預金者による規律付けに関する考察も行なった.預金者は,情報弱者であると言われているが,欧米の実証分析によると,預金者も銀行の財務内容に適切に反応していることが明らかになってきている.まず,既存の実証分析の整理を行い,その後で我が国における最近のデータにより預金者規律付けの分析を行なった.預金者の行動としては預金引出し(預入れ)行動を考え,この行動の要因を探る形で考察を行なった.預金増加率を金融機関の財務指標に回帰したところ,理論的に整合的な結果が有意に観察された.続いて財務情報以外の情報を使用している可能性を探るために,金融機関が将来破綻したときに1になる破綻ダミーを説明変数に追加して推計を行った.その結果破綻ダミーは信用金庫では財務データとともに有意に効いているが,銀行では有意に効いていないという結果が得られた.つまり,預金者は信用金庫においては財務データから得られるハード情報だけでなく,それ以外にいわゆるソフト情報ももとにして預金引出し行動を行っているが,銀行では財務データのみで預金者の引出し行動が説明できることになる.
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