地域金融機関はリレーションシップバンキングに基づきながら中小企業に融資し、一方、大手銀行はトランザクションバンキングに従いながら大企業に融資する構図が暗黙のうちに描かれている。だが、中小企業金融は地域金融機関だけでなく大手銀行による融資も可能であろう。金融機関である限り、大手銀行も借り手の経営内容を十分に審査し、融資した後も監視活動を続ける。それゆえ、大企業だけでなく中小企業への貸出も十分に対応できる体制にある。また、中小企業金融はなにもリレーションシップバンキングだけが有効な手法でない。金融技術の高度な発達からトランザクションバンキングも利用できる時代にはいっている。それは新しい中小企業金融と呼ばれ、その代表としてクレジット・スコアリングなどはトランザクションバンキングによる中小企業向け貸出として大手銀行にも確実に浸透し始めている。 こうした現実を目の当たりにすると、中小企業向け貸出は地域金融機関だけがリレーションシップバンキングの機能を発揮するという従来の考え方に疑問を持たざるを得なくなる。中小企業金融は大手銀行にとっても魅力的な貸出市場であるように映る。特に新しい中小企業金融は地域金融機関よりも大手銀行のほうが優位な立場にあろう。なぜなら、それはトランザクションバンキングの応用分野であり、しかも資金規模が大きいほど貸倒リスクが正確に把握できるからである。 本年度はこうした視点から大手銀行による中小企業金融の可能性を探り、その成果を研究書『中小企業金融の新展開』として出版した。これからは後半に向けて新たに研究を進めていく計画である。
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