19年度は、ほぼ第一次世界大戦以前の時期の金融市場を分析対象として、次の3論点を中心にして分析を進めた。第一に、いわゆる商法・会社法の制定の遅れ問題を、さまざまな利害集団のかかわる具体的な政治過程を中心に検討した。第二に、商法制定の遅れにもかかわらず、わが国の会社の設立発展は急速で、明治20年代後半にはいわば法制度が実態を後追いするかのような状態が生じたのであるが、法制なしになぜこうした企業成長が生じたかを、株式会社の有限責任機能と譲渡可能証券化機能に着目して分析した。第三に、明治初期の金融システム設計上の欠陥が、その後の金融システムの機能限界をもたらしたという側面を分析した。特に官僚の市場観と地方小銀行の利害が大口融資規制や最小資本金規制などのプルーデンス政策を骨抜きにしたことを明らかにした。1920年代以降における銀行制度改革は、こうした初期的欠陥に対する遅すぎた対応であった可能性が強。第四に、株式取引所制度の成立過程を克明に検討し、そこでも米の取引業者を中心とする利害集団が株式取引所法の制定過程で大きな影響を持っていたことを見出した。そうして成立した法制度のもとでは弱小な証券業者(仲買人)と取引所の共同利益を極大化するメカニズムが働いたこと、そのもとでは優秀な仲買人の選別メカニズムが欠如していたことを明らかにした。
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