この研究では戦前期日本の金融システムについて次の三つの問題を考察した。第一は戦前期金融システムの特質であり、戦前期金融システムは、銀行の優勢によって特徴づけられるのか、それとも市場の優勢によって特徴づけられるのであろうかという問題である。第二は戦前期の金融システムの変化メカニズムであり、どのような組織や経済主体が、どのようなイメージないし考えに立って金融制度の変革を試みたのか、その変革はどのような政治過程を通じて実現されたのかということが問題とされた。第三は戦前期の金融システムの変化の方向に関する問題であり、戦前期金融システムは歴史的趨勢として、戦後高度成長期の銀行中心の金融システムに向かって変化していたのか、それとも金融市場が優勢度を強める方向に変化していたのであろうかということが考察の対象とされた。 第一の問題に対する我々の研究の答えは、戦前期金融システムに於いて、資金の動員、資金の変換、資金の配分、企業統治などのそれぞれの機能において、銀行と市場という二つのサブ・システムはある種の役割分担の関係にあったということである。どちらかが他を一方的にリードしたとか優勢であったということはない。第二の問題については、資産保有者の金融システムに対する選好が政治過程を通じて制度を決定したということである。第三の問題については、戦前期の金融システムは戦後の銀行中心のシステムに向かって進化していたということが我々の答えである。すなわち戦後のシステムは戦争経済と戦後改革によって作られたものというより、それらの要因は戦前からの長期にわたる進化経路に沿ってその影響を発揮したということである。以上の研究成果は2011年の夏ごろ岩波書店から『戦前期日本の金融システム』という単行本の形で発表される予定である。
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