本研究は、状態空間モデルを用いて家計の選好を表す潜在的変数を推定し、その歴史的変動の検討や地域比較分析を試みることを企図としている。このような分析は地域による公債負担に関する期待形成の違いを明らかにし、地方財政の制度設計の一助となることが期待できる。しかし、状態空間モデルはさまざまな経済現象に広範に適用されるには至っておらず、経済理論との関係も十分に明らかになったとは言えない。 そこで、状態空間モデルを経済分析に応用するための理論的基盤を整えることが初年度の最大の目的であった。初年度においては、すでに構築されている状態空間モデルに整合するように、地方財政モデルを定式化することを試みた。昨年度は、都道府県別データについて調査し、その入手可能性について検討した。 当該年度においては、それまでに達成した成果をもとに、都道府県別に状態空間モデルの推定を行い、家計行動のキー・パラメターに無視できない地域差があることを確認した。このような地域差の生じる重要な要因として期待形成の違いが挙げられ、公債の負担に関する意識も都道府県によって大きく異なることがわかった。このような差異の源泉として、年齢構成の違いや職業・教育といった属性は重大な影響を及ぼしているとかが得られるが、それらの要因ですべての差異を説明することはできなかった。したがって、都道府県間の差異には、その地域固有の選好や期待形成要因が強く寄与している可能性を排除できないことが判明した。
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