この研究では、企業の合併および買収の影響を分析することである。具体的には、従業員の雇用量や賃金などの雇用条件に与える影響を分析する。近年、日本においても世界的に見ても合併・買収が増加している。しかし、合併・買収が、雇用や賃金に与える影響に関する分析は非常に少ない。このため、合併・買収は従業員の利害を阻害するかどうかについても、実証的な点からははっきりとした答えが得られていない。本研究ではこの点を実証的に分析することを目的とする。 本年度は、まず、データの収集および整理を中心に行った。このような問題を分析する際には、複数のデータベースから必要な情報を収集し、分析可能な形に整備することが必要となる。企業の財務データは日本政策投資銀行の企業財務データ、取締役構成や資本構成などの情報に関しては日本経済新聞NEEDSのコーポレート・ガバナンス評価システムから収集した。さらに、これらのデータをもとに試験的に簡単な統計量の計算を行っている。 本年度は、さらに、合併・買収と雇用に関する全般的な状況を把握するために、いくつかのケースに絞り、情報を収集した。情報源としては、新聞記事、雑誌記事や企業のホームページなどである。日本でも、合併に際して従業員数を削減することで効率性を向上させることを明言するケースもある。その結果、次のような事例を明らかにすることができた。合併の際には、採用抑制や定年退職などのいわゆる自然減を通じて減らす方針を示しているケースもあるが、一方で早期希望退職などを通じて削減する場合もある。たとえば、ある製造業では、合併の際に「単体で3000人、グループ全体で7000人の調整」「ただし、毎年1000人の自然減で達成可能」「事業の合理化、部門の合理化は進めるが、雇用確保の鉄則は守る」ことが合併の際に会社側から表明された。
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