研究概要 |
本研究の目的は,わが国の地方財政における政府間の相互連関関係を,地方政府の戦略的行動と協調的行動を理論的に分析し,それらの実証的検証を行うことにある。具体的には分権的意思決定による戦略的行動の内容を整理し,このような財政競争の存在とそれによる諸問題を解消するため協調政策のあり方を提示する。 本年度は、財政競争と協調政策の特徴を明らかにするために3つの分析から以下の知見を得た。 第一の知見は、各地域が分権的に公共財を供給した場合の支出競争の非効率性とその修正方法としての地域間移転の有効性に関する研究である。この分析から、支出競争による非効率を修正するためには、地域間移転は各地域の公共財生産技術の差異を考慮する必要があること、そして技術格差を考慮しない場合には、非効率を増大させることが示された。 第二の知見は、固定資産税に関する租税競争の有無に関する実証的研究である。この分析から、自治体間の固定資産評価は隣接地域の行動に影響されていること、そして国の固定資産評価に対する統一化の介入があったあとでも、地域間相互依存関係が存在することが示された。このことから、我が国においても租税競争の可能性があることが示唆された。 第三の知見は、政策協調の失敗の可能性である。本研究では地域間の協調的環境政策に関して、環境税と環境規制の比較分析を行った。その結果、各地域の最適環境政策は地域間の経済的取引の特徴に依存すること、そして各地域がことなる環境政策を選択する可能性が高いことが示された。このことから協調的政策を推進するためには地域間の利害を調整するための移転政策が必要であることが示唆された。
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