市場の自由と社会的公正とのバランスをどうとるのか、というテーマを考えるための一つの材料の提供を目指して、本研究は、「社会的安全と経済的自由の結合」と定義されるドイツ社会的市場経済の実態を検討する。具体的には、その「結合」が比較的バランス良く実現された時期とされる1950年代の、とくに56年閉店時間法の制定過程を分析する。従業員の長時間労働からの保護を主目的として制定された同法は、「労働者保護の基本法」といわれる一方、経済的自由を阻害する「市場経済の異物」だと強く批判もされてきており、まさに「結合」をいかになそうとしているかという問題と直接関わるものである。 19年度は、こうした課題検討のための一次資料をドイツ・コブレンツのドイツ連邦文書館において収集をすると同時に、関連文献の収集・読解を進めた。ドイツでは2007年に本研究に直接関わる研究、Wolfgang Mosbacher、Sonntagsschutz und Ladenschluβ、Berlin2007が出版されるなど、学界において閉店時間法に対する注目が高まっているので、そうした動向の吸収に努めた。また東ドイツ経済に関する論文を2本執筆したが、これは、同じ時期を扱うものであること、経済体制を越えて労働者の社会的安全というものを考察していること、経済体制のより良いあり方を問うものであることといった点で、本研究を進めるにあたって視野の拡大という意味で大いに寄与するものであった。
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