明治・大正期および戦前・戦時中の昭和期をカバーする広島県備後地方(現在の福山市新市町)の大手織物製造・販売業者佐々木要右衛門商店が残した膨大な一次資料の整理を、科学研究費の交付が認められた平成19年度以降の3年間に完了し、その間に学術論文、資料目録等の形で研究成果を公開することが本研究の主な目的である。この研究では、経済学研究科在学中の大学院生に対して資料整理の補助を通じて歴史学に関わる根本資料の整理・解読を学ばせるという教育効果も期待されている。 研究初年度である本年度には、資料整理に必要なパソコンや消耗品を整備しつつ、大学院生3人の協力を得て(平成19年6月より計8か月1人週2日1回4時間の整理を依頼)、資料所有者の佐々木被服有限会社より大阪大学に寄託された資料の約3分の2の整理を完了した。整理の指針は、まず資料が入れられている箱を開封し、資料には取り出した順に、番号を記したラベルを添付して、各資料の内容に関する情報を記した整理用カードを資料に挿入し、その内容をコンピュータにも記録していった。整理済みの資料は、例えば一枚物は袋詰めにするなど慎重に保管するように努めつつ、経済学研究科の経済史経営史資料室の書架に順次配置していった。さらに整理を終えた文書に関しては目録を順次作成していった。整理が軌道に乗ってきた平成19年10月以降には大学院で阿部が担当した授業「文書学II」で、上記大学院生3人のほか3人を加えて、資料解読に必要な基礎知識の教授と数回の整理実習ののち、重要と見られる資料の解読とそれらに関する説明を出席者に分担して発表させ、さらに2月19-20日には研究代表者が出席者を引率して備後地方に出張し、若手研究者の近代文書の読解力の育成を図った。なお、『日本経営史』の教科書の全面改定に際して、研究代表者がこれまで独自に進めてきた佐々木家文書による研究成果を盛り込んだ。
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