(1)研究目的・課題に沿い、前年度に引き続き19世紀ドイツ語圏鉄道業の経営体の一般像と経営上の諸問題を主に同時代公文書・文献・新聞等の分析にもとづいて概観・整理した。その成果の一部を下記論文として公表した。(2)今年度からは1870年代に設立された帝国鉄道庁(Reichseisenbahnamt ; REA)について調査・分析を本格化させ、既に調査をはじめていた連邦文書館Bundesarchiv(ベルリン)に所蔵された帝国鉄道庁関連の史料についてさらに調査した結果、80年代後半の鉄道全国統計作成に関わる鉄道庁と他の官庁所部局との軋礫をあきらかにする史料を得た。これにもとづき、ドイツ史における「帝国Reich」に関する議論ならびに一元的制度の利益・不利益に関する経済史的議論に裨益する論稿を執筆予定である。(3)ひきつづきベルリン・フランクフルト鉄道を19世紀前半における鉄道技術導入の突出したケースとして位置づけ、同時代の鉄道技術者Ch.F.Zimpelについて多角的な調査をおこなった結果、技術導入・規格の一元化・技術開発における国家制度の介在に関する「制度化の不利益」の一例とすべきであるとの結論を得た。これにもとづき下記学会報告をおこない、その一部を論稿として作成、査読付雑誌に現在投稿中である。(4)またこれに関連し、ベルリン・ダーレム公文書館所蔵の「ドイツ鉄道管理協会」に関する資料を収集によって、国際的な技術導入・交流に関して制度間の軋礫がその妨害となりえたことを論証する結果を得た。技術開発と制度化の関係固定的観念の見直しにつながる知見であり、今後の精査を経て論文として公表する予定である。
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