本研究は、ドイツ(ドイツ語圏)における工業化とそれにともなう経済成長の時期であった19世紀において、特に第2四半期~第3四半期までを「鉄道建設期」として把握し、主に鉄道業とその周辺産業を分析対象とすることにより、当該時期において顕著であった新技術の導入・開発に対して社会制度や個々の社会的組織が如何に対応し、また逆に技術革新に如何に働きかけたのかを多面的に解明しようとする。新技術の社会的な制御regulationの実態を、工業化初期の欧州において、「全体史」志向をもつという意味で「経済史」的のみならず「社会経済史」的に確認しようとする。具体的には本研究は以下を課題とする。すなわち、(1)鉄道路線建設の全体像の把握ならびに(2)鉄道業の社会経済的インパクトの計量的調査である。より詳細は以下の通りである。 (1)ドイツ語圏とくにプロイセンの特定路線の計画・土地買収から開通・運行にいたる経緯の全体像を、「制度の経済史」的な問題関心と視角に照らしつつ、史料的に緻密にフォローすることによって、19世紀半ばのドイツ語圏社会における鉄道=新技術体系の浸透を立体的に解明する。 (2)クリオメトリックス的手法を-必ずしも狭い意味での新古典派視点に拘泥することなく-導入し、鉄道の主に前方連関効果にあたる輸送・コミュニケーション手段としての効果をより詳細に確認する。
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