本研究においては19世紀ドイツ語圏における鉄道業の成立を技術導入と制度・組織的対応に着目して実証的に分析した。具体的には、(1)1840年代ドイツ語圏諸国の鉄道経営の実態の解明;同時代文献における論評と会計的なデータの比較により、鉄道建設期の鉄道企業の経営状況は路線建設工事の負担に規定されていたことを明らかにし、路線建設における技術的問題の比重の高さを明らかにした。(2)新技術の選択的な導入の実態を、社会制度的環境との相互関連上の文脈上に解明;事例として、1830年代末から40年代初頭におけるベルリン・フランクフルト鉄道の路線工事の経緯を米国で経験を積んだ技術者C.F.Zimpelの活動を中心に観察し、官僚制的な装置によって外挿された技術体系が企業による技術の自由な選択に制限を与えたことを明らかにし、社会的な非効率の存在の可能性を示唆した。また、(3)19世紀後半における鉄道国有化の制度的基盤の観察;「ライヒ」単位での国有化・一元化にむけた官僚制的組織である帝国鉄道庁(Reichseisenbahnamt)が所期の目的を果たせなかった経緯を多面的に明らかにするため、一例として帝国鉄道庁と対抗的であったドイツ鉄道管理協会の国際鉄道会議不参加という事件をとりあげるなど、考察を進めた。
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