日本における化学染料工業の発展に関して、本年度は、その勃興期を中心にサーベイ資料調査をしたうえで、論文の執筆に取りかかった(研究成果欄に記載)。国内では、化学染料工業史の研究がこれまで無かったわけではないが、(1)その成果が英語で発表されていない、(2)近年、当該工業に関する研究者が少ないという点が問題であった。そのなかで、当該年度、従来の研究をサーベーし、何が化学染料工業の勃興を可能にしたのかを明らかにした上で、今後再検討すべき問題を整理し、海外に発信することを目的として英語論文の形で発表した。その過程ならびに発表した論文がきっかけとなって、海外の研究者と交流する機会をもてたことは、重要な成果の1つであった。 化学染料工業を国内で成立させる必要性については、第一次大戦前より一部の研究者が論じていたが、実際にそれが世論にまで高まったのは、第一次大戦期の「染料飢饉」であった。その結果、染料医薬品製造奨励法が施行され、それによって日本染料株式会社が助成の対象となるが、実際に「飢饉」に対応したのは、地域の中小メーカーであった。今後、1920年代を検討して行くにあたって、政策の効果、繊維産業の動向、学卒技術者の供給等化学染料工業をとりまくさまざまな要因を同時に検討する必要を再認識した。
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