研究課題
本研究の最終年度にあたる本年は、研究成果を海外の主要な学会で報告することに努めつつ、化学工業の一分野である製紙業に関しても、発展のプロセスについて化学染料工業との比較を試みた。産業そのものの勃興が第一次大戦を待たねばならなかった化学染料工業と比較して、製紙業は1880年代には相当な部分の輸入代替を果たし、応永とは異なるビジネスモデルを構築していったことが分かった。日本のお化学染料工業に携わった企業群については、企業データベースの完成までは至らなかった。その理由としては、(1)資料的な制約、(2)国際比較が可能になるようなデータベースの設定等方法論的難しさがあった。現在も完成に向けて作成を続けているが、今後新たな資料を発掘し、データベースに情報を追加する必要がある。一方で、化学染料が近代日本に受容されたプロセスについては、産地(同業組合)、学校、農商務省、中央政府といったそれぞれのプレイヤーが重要な役割を果たしたことやファッション化する市場における意義が明らかにされた。各プレイヤーそれぞれが、化学染料の正しい受容を可能にするために、相互に補完的な役割を果たしたと言える。また、化学染料が正しく利用されるには、例えば絹織物の場合、精練工程がきわめて重要な意味を持った。その点は、輸出された羽二重に対する批判が、領事報告を通じてフィードバックされ、産地に精練工程の改善へとつながったことが興味深い。すなわち、繊維関連産業が同時に発展することが、化学染料の受容過程、あるいは化学染料工業の発展にとって、不可欠であった。特に、1920年代、30年代に弱小な企業が淘汰されていく中で(これは企業データベースで確認)、どのような企業が生き残り、またそれを可能にした諸条件を明らかにすべく、データベースの完成を急ぎたい。
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Graduate School of Economics, Kobe University, Discussion Paper No.0919
ページ: 1-48
Graduate School of Economics, Kobe University, Discussion Paper No.0924
ページ: 1-29
http://www.econ.kobe-u.ac.jp/doc/seminar/DP/2009/files/0919.pdf
http://www.econ.kobe-u.ac.jp/doc/seminar/DP/2009/files/1760.pdf