前年度に実施した資料調査・分析の結果を論文「人事管理-人的資源の形成と身分制度」(『日本経営史講座第二巻』ミネルヴァ書房、2009年刊行予定)にまとめた。そこでは、海軍工廠・三菱造船長崎造船所・八幡製鉄所・芝浦製作所を対象に、産業革命期から第一次世界大戦前期の技術系職員の人材開発のあり方を、学校教育と企業内教育との関わり、技術導入とその現場への定着過程での技術系職員の分業関係に着目して考察した。従来あまり評価されて来なかった、企業内教育や職務経験を通して育成され、上位の職位へ登用された下位の教育資格保有者の果たした役割の重要性を解明した。 本年度は、引き続き同じ企業体を対象に、両大戦間期の技術系職員の人材開発と人理管理を調査・研究し、その成果を政治経済学・経済史学会大会共通論題報告「職務能力開発と身分制度」、産業技術史学会年総会自由論題報告「芝浦製作所の技術形成と技術者人事管理」として発表した。さらに、国際比較を意識して、Asia-Pacific Economic and Busilless Hi story Conferenceで上記研究成果の要点を英文論文“The Japanese Human Resource Manag ement Before World War II: A Case of the Engineers"にまとめて報告した。これらの研究では、両大戦期が学校教育と企業の人事管理との接続関係が確立し、日本企業の人事管理を特徴づけた「学歴身分制度」が定着した時期と考えられてきたのに対して、実際には、企業内教育を通して下位の教育資格保有者を学理的知識と現場の経験・知識を併せ持つ人材に養成する取り組みがむしろ拡大され、彼らの能力活用のために上位職位への昇進というインセンティブが引き続き与えられ続けたことを明らかにした。
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