本研究の目的は、近代日本の成立・確立期(1890~30年前後)を対象に、生活に不可欠な主食に注目し、産業化に伴う消費の高度化が市場を通じてもたらす多様な影響を、社会史的・地域史的に検討することにある。特に、(a)主食の需要構造の特質と変貌、(b)主食の取引圏の拡大、(c)国内産地の対応についての実証的解明と総合的考察を課題とする。本年度の研究成果は下記の通り。 (1)資料の調査・収集:上記の(b)について、前年度に所在を確認した米国国立公文書館(ワシントンD.C.郊外)所蔵の三井物産・三菱商事関係資料のうち、対日小麦輸出に関する部分の調査、およびデジタルカメラによる写真撮影に力点をおいた。特に、三菱商事シアトル支店の小麦取扱関係書類(RG131Entry#61)については過半の調査・収集を終えた。〈旅費〉 (2)収集資料の整理・分析:(b)に関して、米国国立公文書館所蔵資料については、撮影リストを作成するほか一件書類や報告書類を分類整理し、入力するなどの作業をすすめた。また(a)(c)に関して、国内の米・小麦の生産・流通や市場に関する収集資料については、画像データ化やデータ入力の作業を、前年度より継続して実施した。〈謝金等〉 (3)研究成果の公表:主に(c)に関し、国内米穀市場の形成と産地の対応について、1900年前後から1910年前後に至る山口県の米穀検査事業に着目し、その主体となった防長米同業組合の事業展開について論文をまとめた。 なお、本研究を通じて、1920~30年代における北米・豪州小麦の対日輸出・対東アジア輸出が、日系商社(三井物産・三菱商事)の活動を通じて急増した事実を確認するとともに、それを可能にした諸条件の解明が新たな課題として浮上した。
|