研究概要 |
昨年後半からアメリカ発の金融危機による大不況がますます深刻になっている中, 上場企業も含めて企業倒産の発生件数も増えている。取引先の倒産による売上代金の不払い損失を避けて, また企業の連鎖倒産を回避するために有効な取引先の信用評価手法とシステムを確立することが重要である。従来の信用評価理論と手法は取引先の信用調査, 公表財務データおよび株価などの外部データに基づくものがほとんどであり, 財務・経営情報の公表が義務付けられている上場企業の評価に適しているが, 財務・経営情報が非公開である企業には適用不可能である。これに対して, 本研究では, 売上, 取引代金の請求, 入金などの日常業務データに基づき, 取引先の信用評価を行う手法とシステムを提案する. 平成20年度では, 次の2点を重点におき研究を進めて研究成果を得られた。 (1) 事例ベース推論手法を用いて取引先の信用評価を行うシステムについて, 距離の定義とウエートの決定の二つの視点から評価対象と過去事例との類似度評価方法を考究し, 判別分析手法を用いてウエートを求める際, システムの性能が著しく改善されることが明らかにされた。研究成果はASIA-PACIFIC JOURNAL OF INDUSTRIAL MANAGEMENTに推薦され, 創刊号に掲載された。 (2) 人間の主観判断のあいまいさを考慮に入れながら, 経営者の経営力・人格, 社会経済情勢または業界の景気傾向などの定性的指標に基づいて, 取引先の信用評価を行う手法を考究した。個別指標の評価値とその影響度をファジィ数で表現したうえ, ファジィ加重平均を導入し総合評価結果を与える仕組みを提案した。また, 実例問題を用いて検証した結果, 提案手法の有効性が明らかにされながら新たな問題点も見えてきた。 サポートベクターマシンを用いた信用評価手法については多数の数値実験と実例による検証を行ったが, 公表できる研究成果は得られなかった。
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