本研究は、企業による社会的責任(CSR)と競争優位の関係を経営戦略論の視点から分析することにある。本年度は、社会的責任に積極的な企業数社への聞き取り調査を行い、その活動と競争優位の関係についてフレームワークを構築した。具体的な発見としては、CSRが競争優位の源泉となるには、いくつかの条件が必要になることが判明した。 ビジネス・モデル(利益は目標か、結果か):既存の経営戦略理論は、「利益を獲得すること」を発想の出発点として、それを可能にする仕組み(戦略)を策定することを課題としてきた。一方、CSRを重視する企業は、利益の獲得を最終目標とするのではなく、企業理念の達成を目標として、それを達成する仕組みを考えようとする。その場合の経営活動においてもっとも重要なのが、同業他社の動向や競争ではなく、自社の経営理念の追求にある。つまり、発想の順序が既存の戦略理論とは対照的になっており、利益は企業理念から生み出された、あくまでも結果なのである。 事業ドメイン:一般に企業が提供するのは製品である。しかしCSRを重視する企業が提供するのは「もの」ではなく、顧客にとっての「価値」である。そのように事業を定義することによって、手がけるべき事業領域が変わってくる。たとえば「家」を売るために必要な競争力は、製品、技術、価格、営業力であるが、「顧客価値」を高めるためには、「街づくり」「経年美化」「エクステリア」、あるいは「快眠」などといった「住環境」全般に関するトータルな価値を高めることが必要になり、取り組むべき事業ドメインが変わる。 このように、CSRと競争優位の関係を解明するとき、既存の経営戦略のフレームワークが整合しないことが明らかになり、新しい戦略のフレームワークを構築することに着手した。
|