研究課題「経営戦略と『企業の社会的責任』」において、昨年度は企業の社会的責任(CSR)に関する質問調査を行った。本研究ではCSRを「顧客満足を進化させ、社会全体に広がりをもたせたもの」と定義している。昨年度はこれまで行った聞き取り調査に基づいて、CSRの取り組みについて約200の企業に対して質問調査を行った。主要な質問項目は、(1)CSRと事業目的、(2)CSRと経営システム、(3)企業戦略、(4)社会との関係、(5)顧客との関係の5項目である。 いくつかの仮説について、共分散構造分析によるモデルの構築と、その検証を行った。分析の結果としては、CSRが経営戦略に直接的に競争優位に影響するのではなく、両者の関係が、本研究で呼ぶところの「リンキング・メカニズム」に大きく影響することが判明した。このリンキング・メカニズムとは、CSRを本業に関連させる企業のもつ能力である。そしてこのリンキング・メカニズムをもつ企業ともたない企業では、CSRが競争優位に影響する程度が大きく異なっていることを発見した。 上記の分析に加えて、パフォーマンスを財務的なパフォーマンスと社会的なパフォーマンスに分類して、CSRとそれぞれのパフォーマンスへの影響を分析した。分析の結果、CSRは財務的なパフォーマンスよりも社会的なパフォーマンスに対して大きく影響することを発見した。
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