本研究では、CSR分野で先進的な取り組みを行っている日本企業に対し、質問紙によるアンケート調査を行った。調査目的は、企業が到達しているCSR経営レベル、利益とCSRとの関係のとらえ方の違いによる成果への影響、CSR活動の成果に影響を及ぼす要因を明らかにすることである。調査の成果として次のことが見出された。CSR度の高い企業は、コンプライアンスやリスクマネジメントをはじめとする受動的CSR課題に成果を出している。しかし、利益とCSRとの関係については、CSRと利益獲得との関係を認識している回答が多い。また、長期的視点に立った成果獲得を目指している企業の方が成果の創出に成功しているケースが多い。さらに、長期的なCSR活動過程で生じると考えられる従業員のCSR経営に対する理解度の向上が成果創出に影響を及ぼしており、この理解度のレベルが戦略的CSR項目と一定の関係を有しており、創業者の経営哲学のような「倫理的プリンシプル」の存在が従業員の理解度の向上へ影響を及ぼしているという結果を得た。加えて、従業員の労働意欲の向上が利益増大に、福利厚生や仕事自体へのニーズ、キャリア構築への十分な対応等が従業員の労働意欲の向上に影響を及ぼしていることがわかった。他方、倫理的組織文化は組織内で醸造されるだけなく企業を取り巻くステイクホルダーからの影響もある。例えば、オバマ政権下の米国では、現在、企業にはこれまで以上に「公正としての正義」や「環境正義」が求められ、無軌道な営利への衝動が批判される傾向にある。時代精神は、貨幣の力が正義であるネオ・リベラリズムの時代から、公正、ケアが重視される次の新たなステージに入るといえよう。米国の企業倫理も今後、そうした社会の地殻変動を反映した方向に進むにちがいない。日本企業における企業倫理も、グローバル化の進行とともにさらに進化しなければならない。
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