研究内容:本年度は研究期間の最終年度でもあり、日本製造企業に国内回帰現象が生じるいくつかの要因について、再度、企業の外的要因と内的要因に分けて整理し直してみた。企業の内的要因については、先端技術のブラックボックス化もみられるが、余り警戒しすぎて閉鎖的になっても現地での競争に乗り遅れることになろう。最後に、これからの日本製造企業がものづくりにおいて目指すべき方向性を考察し、提案することによって一応の最終結論とした。具体的には、国内工場は、(1)もの中心の発想から価値を生み出す場への転身、(2)「課題先進国」を逆手に価値の探求、(3)基盤技術の集積と機動力のある試作によって価値を形に、(4)顧客によるものづくりへの参加・支援といった方向性である(本年度の論文「日本製造企業の国内回帰現象と国際競争力に関する考察-その3」を参照)。 研究の意義と重要性: 2008年のリーマン・ショック後から約2年間は、主に国内景気の不況感や長期化する円高基調のために、国内回帰よりもむしろ工場の海外進出が目立ち、それ以前の国内工場建設計画の凍結などが相次いだ。しかし、2010年末になると日産、キヤノン、東芝、日立などの工場建設計画が次々に発表されたので、これらの工場建設の背景と実態について取り上げた。いずれの国内工場の建設も熾烈なグローバル競争に生き残るための競争戦略の一環として捉えることができる。 そこから見えてきたのは、日本の主力工場をマザー工場にして国内に残さなければ、いずれは自社の海外生産拠点が現地での競争に敗れ、生産活動から隔離された国内の研究開発拠点も消滅してしまうであろうということである。そこに本研究の最大の意義と重要性を見出すことができたと考える。
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