本年度は、日本およびドイツの企業への聞き取り調査を実施するとともに日・独の関連文献の収集を行った。併せて、収集した資料・情報の分析を進め、その研究成果の一部として日本企業における成果主義賃金と手続的公正施策の現状に関する論文を発表した。 成果主義賃金と労使協議の日独比較研究を行う第一歩として、本社が近畿圏にある東京証券取引所上場企業を対象にアンケート調査を行い、成果主義賃金と手続的公正施策の現状と課題の把握に努めた。この研究から明らかになった興味深い事実は、以下の諸点である。 1.一般職層の成果主義賃金の仕組みに関して: (1)基本給の決め方についてみれば、役割給の採用企業が多い管理職層とは異なり、職能給を採用する企業が多数を占めている。 (2)職能給の型については、「積み上げ昇給」を採用する企業が回答企業の半数を占めるものの、成果主義的色彩の強い「洗い替えの昇降給」や「メリット昇給」を採用する企業も4割ある。 (3)昇給(降給)システムに関しては、査定結果が悪い場合に「ゼロ昇給または降給」が起こりうる制度を3社中2社が採用している。実際に直近5年間に降給になった者がいる企業は同制度採用企業の半数に止まるものの、ゼロ昇給に関してはほとんどの企業において認められた。 2.手続的公正施策に関して: (1)「情報公開」に関わる人事考課の基準や方法の公開はほぼすべての企業で、また評価結果の被評価者へのフィードバックも大多数の企業で行われている。 (2)「苦情処理制度」の採用企業は、回答企業の半数弱にとどまる。苦情処理制度を採用しない理由としては、「評価や査定結果については納得がいくまで上司と部下が話し合うのが一番良いと考える」企業が多数を占めた。 (3)「発言」に関わる「人事考課表作成に対する従業員代表の関与」を認める企業は、回答企業の半数に達しており、しかも苦情処理制度のある企業ほどこれを認める傾向が強い。
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