本年度は、海外共同研究者との意見交換、日・独両国企業への聞き取り調査を行うとともに、日・独の関連文献の収集を行った。そして、収集した資料・情報の分析を進めた。 日独比較研究を行う前提作業の1つとして、本年度はドイツの金属産業における成果主義賃金と労使協議ならびに手続的公正施策に焦点を当てて研究を行った。この研究から明らかになった興味深い事実は、以下の諸点である。 第1に、ドイツの金属産業では、一般職層に対しても成果主義賃金制度を適用しており、そのタイプには、「標準賃金」と査定に基づく「業績手当」の2つがある。標準賃金は、出来高賃金の発展型であり、伝統的に出来高賃金の普及しているドイツに特徴的なタイプの成果主義賃金といえる。これに対し、業績手当は、日本の業績給ないし考課昇給に相当しており、ここに成果主義賃金制度における日・独の共通性が認められる。 第2に、一般職層に査定を行う場合、情報公開・苦情処理・発言の3領域における手続的公正施策が労働協約に基づいて制度化されていることである。 (1)情報公開関係:評価基準および評価結果の公開が協約で規定され、考課表にはその証となる被考課者の署名欄が設けられている。 (2)発言関係:業績考課表の作成に関してみれば、評価メルクマールおよびモデル考課表は労働協約がこれを規定する。企業・事業所は独自の考課表を作成できるが、それには協約当事者の合意が必要であり、しかも、その作成には、従業員代表=経営協議会が関与することになっている。 (3)苦情処理関係:評価結果に対する異議申し立てを被評価者(および経営協議会)に認め、この苦情処理に当たる労使同数委員会の設置、その処理結果が合意に至らない場合の仲裁委員会ないし労働裁判所への提起も協約で保障している。この異議申し立ての制度化は、日本では一部の企業がこれを採用するに止まっており、ここにドイツ的な特徴が認められる。
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