研究概要 |
当研究テーマの3年次に当たり,以下の研究を行った。 2年次に実施した,次世代携帯電話の一つiPhoneに関するクチコミがある組織にどのように浸透するかを,同一対象者への2時点調査で測定したデータを用い,そのプロセスを再現するエージェントベース・シミュレーションを行った。これによって,クチコミという消費者間相互作用と消費者の選好形成が同時に進行するダイナミクスについて,実データを用いながら分析した。そこから得られたマーケティング上の含意は,新製品の普及の初期にどの消費者に情報が付与されるかは,その後の普及に有意な影響を与えるということである。この結果を日本マーケティング・サイエンス学会第86回研究大会で報告したほか,論文を投稿中である。 このような3年間の研究成果を踏まえ,消費者間相互作用を複雑系科学の方法論で捉えることの重要性を,商業学会,the 9th Asia-Pacific Complex Systems Conferenceでそれぞれ報告するとともに,『流通情報』誌に論文として発表した。 一方,このような問題意識に関連する消費者選好の複雑性についても研究を行った。行動計量学会において選択時の葛藤が選好ルールに与える影響,消費者行動研究学会では装備の過剰が製品への選好に与える影響に関する研究結果を報告したが,いずれも伝統的な合理的選択モデルでは説明できない現象である。また,行動経済学会において報告した消費者の「予見能力」に関する実験も含め,これまでの消費者行動研究では取り上げてこなかった複雑性が,消費者の選好形成を考える上で重要であることを示したといえる。
|