本研究の目的:米国大統領選挙を中心に米国政治選挙における対有権者市場開発訴求戦略技法としてのマーケティングの歴史的展開とその民主的含意を、歴史的資料および最新事例の分析を通じて実証的に解明する。 平成20年度研究実施計画の焦点(1):1970年代以降の米国政治におけるマーケティング史の文献調査(継続中) 研究成果 (1)文献調査から、70年代以降のニクソン、レーガン、ブッシュ共和党政権およびクリントン民主党政権とその選挙戦略におけるマーケティング利用は、政権運営においても選挙キャンペーンのメンタリティと装置を継続しつつ政敵や報道との競争に勝ちぬく、いわゆる「恒久的キャンペーン」の常態化という現代米国政治の特性と深く関わることが明らかになった。(2)大統領図書館所蔵資料は、選挙時内部資料を原則非公開とする場合、また入手可能な資料でも請求から入手までに相当の時間を要することが明らかになったため、平成21年度も継続調査を行う。 成果の意義 マーケティングの浸透は、現代米国政治における政党機能の低下と集団圧力政治の伝統に加え、セグメント化された有権者に到達する政治的必要とそれを可能にする技術、専門産業の成立によって、個々の政権の選択というよりもむしろ民主政治過程の必然的変化として構造化しつつあることが明らかになった。 平成20年度研究実施計画の焦点(2):2008年米国大統領選挙(予備選挙)のマーケティング事例分析(継続中) 研究成果 2008年大統領選挙の予備選挙および一般選挙におけるポジショニング、ブランディング、戦略広報と組織化の具体的諸相を事例分析し、戦略展開および技術的観点における特性を検討した。 成果の意義 2008年選挙は初の黒人大統領誕生という米国史上初の画期的選挙となったが、選挙戦略と技術、また新政権の運営戦略において、マーケティングの発想と技術は、実験的革新的な洗練を加えて一層定着しつつある。我が国の報道機関も、既存の政治手法や政策伝統を覆し、米国政治潮流を変える積極的政府への転換をめざす新政権の戦略を解読するうえで、技術論戦術論にとどまらない公共マーケティングの視点に注目し、理解を深めつつある。
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