研究概要 |
1.研究の目的:米国大統領選挙を中心に米国政治選挙における対有権者市場開発訴求戦略技法としてのマーケティングの歴史的展開とその民主的含意を、歴史的資料および最新事例の分析を通じて実証的に解明する。 2.H21年度研究の焦点1:1970年代以降の米国政治におけるマーケティング史の文献調査 (1)研究成果 萌芽の見える60年代にまで遡り、現代までの大統領選挙および政権運営におけるマーケティング戦略技法の展開と政治史的背景について、大統領図書館所蔵書類の一部を含む文献をもとに一覧表を作成した。 (2)成果の意義 マーケティング戦略技法の利用は、(1)政敵との競争度、(2)市場への新規参入、(2)国内外の政治環境の流動性・予測不可能性などの環境条で促進されるとみられる。またその普及は現代民主過程の必然的結果として拡大する一方、戦略の高度化や革新は、側近の技能習熟度などに左右され直線的に進化しない。 3.H21年度研究の焦点2:2008年米国大統領選挙のマーケティング事例分析 (1)研究成果 マーケティング観点からみたオバマの戦略技法は、(1)支持層・地域の新規市場開拓、(2)共感を鍵とする関与参加率向上、有権者創発型のプロダクト定義にみられる先進的な市場志向性、(3)オンタイムの顧客情報管理(CDM)、資金集め、同輩集団の組織化と動員、草の根拠点を核とするWOMプロモーション等の諸段階をシームレスに統合するオペレーションシステム、(4)豊富な資金力による全方位クロスメディア戦略、(5)ブランド管理・危機管理にとどまらない開放形ブランディング='reputation',(6)弱みを強みに変え、変革ブランドの説得力を増す米国原点回帰と再生のストーリーとその語り手の卓越した資質、などの点で革新的かつ秀逸である。 (2)成果の意義 選挙マーケティングとしては、民主政活性化の実験の成功例である。ただし政権運営では、市場の諸利害を超えた公共利益の実現というマーケティング目標の調整が必然であり、その成否は予断を許さない。 4.H21年度研究の焦点3:米国型政治マーケティングの民主的意義の考察 (1)研究成果 米国型マーケティング戦略技法の海外転出とその国際政治環境、およびマーケティングの民主的含意評価の国際比較枠組みについて、文献調査と関係者ヒアリングを実施した。 (2)成果の意義 米国中心の選挙=競争モデル、米国化モデルを相対化し、グローバルに多様な形で展開する政治マーケティングの現状に即し、統治過程を含む中長期的射程を備えた民主的評価枠組み作りが急務である。
|