本研究では、企業の投資意思決定にかかる保険契約の役割を考察するためのエージェンシー・モデルを構築するとともに、数値計画法に基づくシミュレーションを行った。結論として、「リスク性負債と保険契約」の組合せによって、株式価値をエージェンシー・コスト分だけ引き上げることで、過少投資問題を解決し死荷重を解消できることが明示された。つまり、保険契約は株主による更新投資に関する意思決定を拘束することで、適正投資水準を実現できる効率性効果を有することになる。また、企業資産の原状回復を目的とした保険契約があることで、再調達資金が確保され更新投資が実行されることで、初期の設備投資も有効になり、結果的に負債発行により資金調達をしているケースでも、自己資本の活用と同様に、正のNPVをもつ投資実行が保証されることになる。さらに、保険契約と負債契約の相互関連において、負債金額自体の引下げを通じて、倒産リスクを抑止する可能性も示唆された。そのために、負債契約に付随するエージェンシー・コストと倒産・信用リスクに掛かるエージェンシー・コストは、保険契約を通して相互に関連付けられることになる。つまり、保険契約の存在によって投資意思決定が効率化されると、負債金額の減少を通じて倒産・信用リスクも排除することが可能になる。このようにして、保険契約は負債のエージェンシー・コストを軽減することで、新焼投資に伴う死荷重を解消して、投資意思決定を効率化することができることを解明した。最後に、こうした仮説を、北九州市にある環境リサイクルセンターの財務データによってシミュレートしたところ、保険契約とリスク性負債の最適な組合せが存在することと、そのケースでは更新投資が活発化することが裏付けられた。
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