本研究は、ラグジュアリな体験・経験に内在する対立する構成概念を明らかにした。今年度は、モノからコト、具体的には海外旅行に目を向けた。フォト・エリシテーション・テクニックを用いた。海外に行ったときの写真で、インフォーマント(調査対象者)がもっともラグジュアリだと認識している体験を撮影した写真を、事前に数枚準備しておいてもらう。写真を眺めながら、なぜその体験がラグジュアリと感じるのかを、インタビューで尋ねた。ビデオカメラを用いて、インタビューの様子を記録した。この手法は、ビデオグラフィーと呼ばれる。オーディオのみならずビジュアルのデータも分析し、ビデオ編集して研究成果を発表する新しい方法論である。ビデオグラフィーを通じて、我々は、ラグジュアリな体験には、対立する概念が共存することを発見した。具体的には、1)日常VS非日常(the ordinary versus the extraordinary)、2)期待通りVS予想外(the expected versus the unexpected)、3)特殊な体験VS過去とのつながり(the separate versus the connected)、4)時間の効率的使用VS時間の非効率な過ごし方(the efficient versus the free or "wastefull" use of time)である。一般的な認識として、海外旅行は、非日常で、期待通りのことが起こって、特殊な体験で、時間を効率よく使うものである。ところが、調査によって、消費者は、海外旅行で、日常と同じように過ごし、予想外のことが起こり、過去とのつながりを見出し、無駄な時間の過ごし方をするとき、贅沢だと感じることが明らかになった。豪華な体験だけではなく、消費者の心の中の意味がラグジュアリを生み出すのである。
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