この研究の目的は、日本の茶道のなかにみられるもてなし行動を通じて、ぜいたく感情がどのように生成するか、ぜいたく感情の生成メカニズムを見るにとにある。我々の今回の主要なリサーチ・クェスチョンは、「なぜ茶会の参加者は贅沢を感じるのか?」である。今回は日本の茶の湯を対象として、ビデオグラフィーを行うことにした。なぜ日本の茶道を研究対象としたのか。茶道は実用的な消費者行為ではなくて、非日常的に行われる儀式であり、ぜいたくである。そこにはもてなしという行為が基底にあり、ぜいたくを感じさせるための仕組みがあるのではないかと考えられたからである。お茶会のセッションを三人の女性に行ってもらい、ビデオにその茶会の様子を撮影した後でインタビューを行った。インタビューを通じて明らかになったことは、茶会という機会に亭主と客との間にさまざまなインタラクションが存在することである。こうしたインタラクションは次の3つのキーワードで表すことができる。1.チームワーク、2.テーマ性、3.ゲームである。重要なことは、茶会において茶道具のようなモノや、茶会という貴重な社会的価値のある事態(event)を通じて、参加者がそこに自分の人間関係のあり方を読み取っているということである。つまりこうした茶会というコンテキストで提供される飾りつけや道具は単に価値のあるモノというだけでなく、亭主と客との人間関係、あるいは自分自身のアイデンティティについてのメッセージを伝える媒体になっているということなのである。例えば、貴重な茶道具を出された客は、亭主からその茶道具の言われや歴史を聞いてとてもうれしく思う。なぜそのような話を聞くのが喜びなのか。ひとつは亭主が自分のために貴重な茶道具を出してくれたということ、もうひとつは、そうした歴史のある茶道具と触れ合うことによって自分が歴史的存在であることを感じさせてくれるからなのである。
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