研究概要 |
本年度においては,財務データならびに経営者報酬に関するデータ・ベースが整いつつあり,経営者報酬と利益情報の間の関係に加えて,経営者報酬とキャッシュ・フロー情報の間の関係について実証的な検証を試みた。分析の結果,従来の実証研究の分析結果と一致して,会計制度の大幅な変更があった後においても利益情報は経営者報酬と正の関係にあることがわかった。このような実証的証拠は,業績連動報酬制度がインセンティブ・システムとして定着してきていることを示す.経営責任の不透明感を払拭するためのシステムが効果的に機能しているといえるが,その際に,会計情報が重要な評価指標となっていることが示唆された. また,限定的ではあるが,公表済のキャッシュ・フロー情報が経営者報酬の変化と統計的に有意に正に関係していることが明らかにされた.利益の情報価値が低下するような状況において,キャッシュ・フロー情報が利益情報の補完的役割を果たすケースがみられた.業績連動報酬制度にキャッシュ・フロー情報の利用を明示する事例はまだあまり見られないが,経営者の行動について情報提供的であるかぎり,業績指標の利用ウェイトは変わってくる可能性があると考えられる.経営者の業績評価に関して,複数の業績指標の利用が契約当事者をどの程度満足させるかは今後も探っていかなければならない課題である。 さらに,わが国では,経営者報酬に関するディスクロージャーはまだ十分な状態ではないが,有価証券報告書などの公表されているデータを収集する作業に取りかかっている。
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