研究概要 |
本年度においては,財務データならびに経営者報酬に関するデータ・ベースが整備されたので,経営者報酬と利益情報の間の関連性について,利益情報を詳細に分割し,そのデータが経営者報酬のの水準にどのような影響があるかを実証的に検証してみた。すなわち,会計利益と経営者報酬の水準との関係において,営業利益と営業利益より下の損益項目が経営者報酬とどう連動しているかを経験的に調査している。実証分析の結果は,営業利益と経営者報酬の水準が強く関係することに加え,営業外損益や特別損益という利益の構成要素が経営者報酬の水準に強い影響力をもっていることを示す。 また,わが国では経営者報酬制度の仕組みが明示的に公開されることは少ない。ただ,実務上,会計数値をベースにした業績連動型報酬(主に現金報酬)が企業で広く採用されていることはよく知られている。そこで,有価証券報告書に記載される内容を基礎に,日本企業の業績連動型報酬の構造を調査してみた。業績連動型報酬のパフォーマンス尺度として利益額の利用が大半であり,経常利益や当期純利益などがそのまま利用されていることに特徴がある。業績を測るモノサシとして会計利益の役割は大きい。パフォーマンス基準については,前期利益や予想利益が利用されることがあったが,外部評価基準となる産業平均利益などが利用されるケースは見当たらなかった。業績連動型報酬の実際の適用例を取り上げてみたが,業績向上の短期的インセンティブを与えるために,毎期の業績が現金報酬に反映する仕組みになっていることが明らかにされた。わが国の企業において,成果重視の報酬体系の考えを経営者報酬制度に組み込むことが徐々にではあるが浸透してきている。
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