本研究では、バランスト・スコアカード(BSC)を取り上げ、組織におけるその機能を「Distrustの合理化」、「Distrustの制度化」といった観点から検証し、BSCが組織内におけるTrustの形成・維持・向上に一定の役割を果たしていることを明らかにすることを目的としている。本年度の研究では、既存の理論研究のサーベイを行い、組織内の関係性における「Distrustの合理化」を通じたTrust向上モデルに基づく、BSCの「Distrust合理化」機能に関する理論仮説の導出を試みた。 BSCにおいては、財務、顧客、内部ビジネス・プロセス、学習と成長という4つの視点に基づき戦略を具体的な尺度へと変換していく過程において、戦略の伝達・理解・共有、そのためのコミュニケーションの重要性が強調されるが、その過程の中で「Distrustの合理化」機能が働いていると考えられるのである。そこで、組織内の関係性における「Distrustの合理化」の枠組みをもとに、Distrust合理化のための3つの要件をBSCの基本構造ならびに戦略志向の組織体の5原則に対応させてBSCの果たす機能について検討し、 BSCには「Distrustの合理化」機能が内包されていると考えられる点を明らかにした。また、組織内の関係性の安定化にはTrustとDistrustとのバランスが不可欠となるが、BSCでは組織内の関係性にDistrustを埋め込む仕組み(Distrustの制度化)が存在しており1それによってTrustのみにもとつく関係性の限界を打破し、より強固な組織内の関係性構築への役割を果たしていることも明らかにした。このように、BSCにおいて「Distrustの合理化」と「Distrustの制度化」という両側面がうまく機能していることが、BSC導入企業における短期間でのパフォーマンス上の成功を説明する一つの要因として考えられる点を指摘した。
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