本研究では、バランスト・スコアカード(Balanced Scorecard; BSC)を取り上げ、組織におけるその機能を「Distrustの制度化」、「Distrustの合理化」といった観点から検証し、BSCが組織内におけるTrustの形成・維持・向上に一定の役割を果たしていることをBSC導入組織への調査をもとに明らかにすることを目的としている。 昨年度の研究では、既存の理論研究のサーベイを行い、組織内の関係性における「Distrustの合理化」を通じたTrust向上モデルに基づく、BSCの「Distrust合理化」機能に関する理論仮説の導出を試みた。本年度の研究では、この理論仮説をもとに、これを構成する変数の次元・要素を抽出し、概念的定義を行ったうえで調査仮説を構築し、それを検証すべくアンケート調査を実施している。 アンケートは、東京証券取引所第一部上場企業(ダイヤモンド社会社職員録2009年版所収の東証一部企業1718社)における、BSCの導入/運用に中心的役割を果たすと思われる経営企画部(室)・管理本部・総合企画部(室)などの長を対象に送付し、151通の回答を得ている(回収率8.8%)。回収したアンケートをもとに、東京証券取引所第一部上場企業におけるBSCの導入実態を把握した上で、BSC導入企業におけるBSCの導入目的と導入効果ならびにBSCの運用状況に関する分析作業をとおして、調査仮説の検証を行い、その検証結果に基づき、当初構築した理論仮説を検証することで、組織においてBSCが果たす「Distrustの合理化」という新たな機能側面の解明を試みている。
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