IASBが2007年2月に公表したSME版IFRS(公開草案)では、国際的な資本移動に関わらない報告主体の会計基準を扱っている。EUは2005年から上場企業の連結財務諸表の作成・開示にIFRSを適用しているが、非上場企業と域内新興経済圏(エマージングエコノミー)の会計規制の問題は残されたままである。本研究課題では、EU域内における新興経済圏諸国にIFRSが導入される場合の問題点にアプローチした。その結果、明らかになったことを以下に示す。 (1)SME版IFRSは完全版IFRSの縮刷版として構築されているので、後者が抱えている理論的な課題を持ち越している(例えば、金融資産・負債、収益認識、無形資産・企業結合・のれん)。 (2)SME版IFRSは概念フレームワークにもとつく基準の開発という条件を間接的にしか満たさない。したがって、SME版IFRSにもとづく財務情報が「品質」を備えたものであるかどうかは、検討の余地を残しており、拡大EU諸国に導入するには未解決な論点がある。 (3)財務情報利用者のベネフィットが強調され、クロス・ボーダー取引に参加する金融機関が外部利用者として想定されており、通常より限定的な利用者が念頭に置かれている。 (4)今後の課題として、EU新規加盟諸国の基準統合化促進にSME版IFRSが効果を発揮するためには、論点整理(例えば、原則主義の適用)、USGAAPとの国際比較やSmall GAAP研究、フィールド・テストが必要である。
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