本年度は、欧州におけるPFI会計基準を文献研究を通じて検討した。具体的には、Butterworths PFI ManualおよびPPP in EuropeによってEU各国のPFIに関連する制度や法規制などを把握するとともに、国際財務報告基準解釈指針のIFRIC 12を検討し、EUにおけるPFI会計基準の内容とその問題点、および基準設定に関わる諸問題を考察した。なお、今年度はEUにおいてPFI会計基準の設定が重要な進展を見せたため、その検討に注力した結果、当初の実施計画で予定していたオーストラリアにおけるPFI会計基準の研究は行わなかった。 研究の結果、以下のことが明らかになった(その研究結果の一部であるIFRIC 12に関する部分を『企業会計』に発表している)。EUの統一基準となることが期待されているIFRIC 12は、PFI取引を会計処理するにあたって、金融資産モデルと無形資産モデルの2つを規定しているが、その最大の特徴は英国基準などとは異なり、「リスク経済価値アプローチ」ではなく「支配アプローチ」を採用している点にある。こうしたアプローチは、既存のIFRSにおける収益認識基準とは整合するものの、官民の適切なリスク分担を反映するという点では問題が多い。また、いずれのモデルを適用するかで期間利益が大きく異なるという問題もある。こうしたことから、EUではIFRIC 12の承認をめぐって加盟国の間で激しい意見対立が生じた。この対立は、各国の経済政策遂行におけるPFIそのものの重要性のみならず、その会計処理の基準いかんでPFIに期待される役割が十分に果たされなくなるおそれがあることを示している。 以上のような研究成果は、国内・地域・国際的次元での会計規制の在り方を考える上で重要なインプリケーションを持っている。また、これは国際的な公会計基準の設定とも密接に関連しているため、パブリックセクターのマネジメントの改善とVFMの向上にむけたさらなる研究に貢献できると考えられる。
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