研究概要 |
本研究の目的は、「戦前期有機・無機化学工業各社の財務報告実務」に対象を絞り、その財務情報の開示水準と内容を分析し、財務諸表準則の化学工業各社の財務報告実務に対する影響を考察することにある。 この目的のため、本年度は、平成19に引き続き、営業報告書成第一集から第五集に収録されている母集団から、データの完全性を確保するために予め設定された選定諸規準に基づき、有機・無機化学工業24社のサンプルを抽出し、同企業の財務諸表より、貸借対照表、損益計算書および利益処分案関係の情報を収集し、開示項目について、その項目数ならびに各々の金額に関し、データベースを作成した。 同データベースに基づき、貸借対照表、損益計算書および利益処分案の各表上で開示された平均開示項目数を分析したところ、これまでの通説として戦前期の企業財務報告実務が極めて多様であったことが指摘されているが、実際に株主総会に提示された財務諸表中に開示された財務情報は各会社間で驚くほど均質的であったことが明らかにされた。企業規模毎に分類した財務報告実務の実態からみても、グループ間に統計的な有意差はなく、その意味でも開示された財務情報は企業間で均質であったことが明らかにされた。この結論は、化学工業に限定されているとはいえ、開示財務情報を通じた企業がバナンスの構造が企業間で近似していたことを示唆する重要な証拠として注目される。 以上の分析結果を取りまとめ、「日本会計制度史研究の方法」以下3編の論文を『経済志林』に公表した。また、本研究の関連で付随的に分析した大日本航空株式会社の予算統制の実態を、M.Noguchi and M.Nakajima,'Maintaining Budetary Control in a Wartime Economy:The Case of Japan Airways'として取りまとめ、2008年7月20-24日にトルコ・イスタンブールで開催された12th World Congress of Accounting Historiansにて発表した。
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