研究概要 |
第1に内部統制の監査が市場の信頼性を高めるシグナルとして機能できるかについて,実験市場を用いて検証した。その結果以前の実験で得られたより,一層はっきりとした形でシグナルとしての有効性が検証できた。実験市場は次の3つが設定された。いずれの市場も経営者は内部統制に投資をすることは可能である。最初の市場は経営者が内部統制に投資をしたかは開示されず,経営者は監査も購買できない。第2の市場は内部統制の投資の開示はされないが,監査は購買可能である。最後の市場は内部統制の投資が開示され,監査も購買可能である。実験の結果,第2の市場より最後の市場で,経営者の粉飾も減少し投資家の資産の購買も上昇した。内部統制の投資の開示は内部統制の監査の本質を単純化して表したものであり,そのシグナリング機能が有効に働くことを示したと考えられる。 第2の実験では,損害賠償訴訟と行政処分のいずれが市場の信頼性を高めるのにより効率的かを検証した。この実験ではこれらの鞭の効果以外に,飴の効果についても検証が加えられた。それは,資産の購買が成功裡に終ったときに,投資家が経営者の代りに内部統制の投資コストを負担するというものである。実験の結果,損害賠償訴訟の方が行政処分より効率的であり,投資家による内部統制の投資コストの負担という飴は十分な効果を得られなかった。行政処分が思ったよるな効果を発揮できなかったのは,行政処分が発動された頻度が予想に反して少なかったためである。損害賠償訴訟が可能な市場では,被実験者が大半の場合訴訟を選択したため,訴訟の頻度が高くなり,充分な脅威となったと考えられる。
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