研究概要 |
内部統制の監査の意義については,市場のシグナリング機能という観点から,モデルに基づいた実験を前年度にすでに実施して検証した。その結果内部統制の監査の制度化は,市場の信頼性を高める傾向を確認するにとどまった。今回はこの実験の再試を行うと伴に,内部統制の整備コストを投資家が負担することによって,内部統制の整備を促進し市場の信頼性を高めことができるかを検証した。 市場の信頼性を高める手段として近年特に強調されていることは,経営者に対する「鞭」の強化である。しかし今回の実験では,投資家による内部統制の整備コストの肩代わりという,経営者に対する「飴」の効果についても注目して検証した,また今回の実験では,経営者に対する「鞭」として損害賠償訴訟と行政処分のいずれが効果的かについても検証した。実験では次の結果が得られた。 (1)経営者による内部統制の整備の有無が開示されると,経営者の誠実な行動と投資家の投資が促進され,内部統制の監査が市場におけるシグナリング機能を保持することが確認された。 (2)投資家による内部統制の整備コストの肩代わりという「飴」は,経営者の誠実な行動と投資家の投資を増加させることはできなかった。しかし経営者に対して内部統制の整備を促進する傾向は確認された。 (3)経営者に対する「鞭」のうち,損害賠償訴訟の方が行政処分による罰金より,経営者の誠実な行動と投資家の投資を促進する効果があった。損害賠償訴訟を受ける機会の多さが,経営者に対して不誠実な行動を抑止する効果があり,行政処分の一罰百戒的な性格の裏面が浮かび上がった。また損害賠償訴訟をためらわないことの重要性が示された。
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