研究概要 |
2004年から2008年における上場企業における公表済み財務諸表の訂正を、東京証券取引所の適時開示システムに登録された情報から抽出してデータベースを構築した。当該データベースには、のべ2,093社による3,603件の訂正が含まれている。当該データベースを利用して訂正の実態を検討したところ、主な傾向として、2004年以降、訂正が急増していること、訂正が生じる財務諸表の箇所は広範で財務諸表本体のみならず注記情報においても多く発生していることなどがわかった。訂正の公表を行った場合の株価への影響を分析したところ、全体としては公表日およびその翌日における超過株式収益率は統計的に有意にマイナスの値となった。詳細に分析したところ、訂正した企業が本則市場に上場しており、かつ、利益を減額する訂正情報を公表した場合において強いマイナスの株価効果を確認することができた。また、訂正の可能性が生じた場合の開示情報において、訂正金額が明確でない場合に非常に強いマイナスとなることが明らかとなった。さらに、利益訂正の発生確率に影響を及ぼすガバナンス要因について分析した。その結果、利益の減額訂正については、監査役に会計専門性があること(とくに、元経理部長であること)が訂正の発生確率を統計的に有意に減少させていることが判明した。これに対して、増額訂正については、取締役および監査役の両社における会計専門性(とくに、元経理部長であること)がともに重要であることがわかった。これらは、社外の税理士や会計士が取締役や監査役となることが、利益訂正に限ってみた場合には、有効ではないことを示している。さらに、これらの分析によって、社外監査役や社外取締役の存在が、利益訂正の発生確率に影響していないことも明らかとなった。
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