複式簿記の歴史の裏付けを得ながら、その論理を解明するとしたら、大航海時代によって変化する取引形態を意識して、複式簿記はどのように対応したか、この問題から解明しなければならない。特に問題になるのは、特殊な商品売買のために開設される「先物売買勘定」、「航海勘定」、「冒険売買勘定」(日本では直訳して「運不運勘定」)、「旅商勘定」、さらに、特殊な金銭貸借のために開設される「冒険貸借勘定」である。 そこで、16世紀に出版される複式簿記の印刷本を渉猟、読み漁ることで、そこに例示される仕訳帳と元帳から、1つひとつ解明、この特殊な取引形態の全貌は、ほぼ浮き彫りにしえたようである。紙幅の都合から、すべては記載しえないが、例えば、損害保険の先駆である「冒険貸借」は、1234年に公布される「徴利禁止令」に抵触することを理由に、存続されることは困難になって、むしろ廃止されてしまい、「無償貸借」、「仮装売買」が開発されたことになっている。しかし、16世紀に出版される複式簿記の印刷本には、冒険貸借は依然として例示される。そこで、16世紀まで存続されたのはなぜか、複式簿記からの疑問、謎の謎解きに挑戦して、徴利禁止令に違反しないことを詭弁する「言いくるめの論理」によって存続されたことを実証している。併せて、無償貸借、仮装売買について、どのような取引形態であったかも実証している。 なお、紙幅の都合から、記載するのを割愛せざるをえなかった取引形態の詳細については、この研究をまとめ公刊した拙著『複式簿記会計の歴史と論理-ドイツ簿記の16世紀から複式簿記会計への進化-』(森山書店)を参照して頂きたい。
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