(1)本研究の背景には、過去10年以上にわたって続いてきた深刻で危機的な「出版不況」に対する問題認識がある。一般的な出版不況は、とりわけ「硬派出版」の一つである学術出版に大きな影を落としている。本研究は、このような現状認識をふまえた上で、単に学術系の出版社における意思決定プロセスを明らかにするだけでなく、今後の学術界のあり方をも含めて学術出版の進むべき方向性に関して、幾つかの指針を提出しようとするものである。 (2)本研究では、基本的に「文化生産論」の理論的枠組みを援用した上で、組織サイズや組織文化の異なる複数の出版社を事例分析の対象にして、刊行意思決定プロセスの詳細について明らかにしようとするものである。 (3)事例分析の焦点は、単に個々の書籍の刊行に関わる意思決定だけでなく、それぞれの出版社が全体としてどのような刊行ラインナップを経済資本、社会関係資本、象徴資本など各種の資本の「ポートフォリオ」として形成してきたかという点にある。また、それが出版不況の中でどのような変貌を遂げつつあるのかという点が今後の学術コミュニケーションのあり方を探り、またそれを踏まえた上での指針を提供する上できわめて重要な課題として設定された。
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