本年度は、研究の最終年度になるので、関連文献・資料、データの収集を進めつつ、昨年度に引き続き、これまで行ったインタビュー記録の整理・分析を中心に作業を行った。分析においては、高度経済成長期の一般的な特徴を記述した文献・資料と対比する形で、水俣地域における日常生活の状況の異同をあぶり出すことにつとめ、研究のとりまとめを行った。整理を試みた生活領域は以下の通りである。 (1)結婚と出産の変遷(2)家電の導入と生活変容(3)商店街の変化(4)魚の販売と消費(5)水俣病体験の濃淡(6)安賃闘争と地域生活 その中で浮かび上がってきたのは、それまでの共同体的で、インフォーマルな人間関係の大きな変容と、高度経済成長にともなう家庭の消費の急速な拡大である。そうした変化とともに、個人商店は反映を享受するが、一方で、地域生協となった水光社、進出したスーパとの競争も激化していった。その中で、水俣病とともに、この地域に分断をもたらす出来事として、安賃闘争が勃発する。組合の分裂とともに、地域社会の中にも大きな対立が持ち込まれたのである。そのしこりは、水俣病とともに、現在まで地域社会に残されたのであった。 他方、第一組合内部では、会社側の攻撃という外圧もあって、新たな濃密な人間関係が形成された。そのため、新規組合員の確保はできなくなったが、残された組合員の団結によて、2005年まで組合は存続し得たのであった。そして、水俣病との患者の連帯、環境運動の展開など、組合を通じてつくられたネットワークの中で、地域の活性化に津ながら様々な動きが創成されたのであった。 このように、水俣病は、それ独立のものではなく、日常生活も含めた地域社会の大きな変容の中で体験されたものであって、それ単独で語り得るものとは言えないのである。
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