本研究では、外国人研修・技能実習制度によって日本に入国し、事実上、単純労働に従事している中国人労働者に焦点を絞り、北海道オホーツク地域(紋別市・網走市・雄武町)、四国地域(愛媛県今治市・西条市・四国中央市・伊予市、香川県高松市)、愛知県名古屋市、兵庫県加古川市を調査対象地として、調査を行い、以下の知見を得た。 第一に、地域産業が直面する労働力不足解消という点から見ると、いままでのところ研修・技能実習制度は「巧妙」な制度であったといえる。外国人単純労働者を入れないという政策を維持しながら安価な単純労働者を期限付きで導入することに概ね成功してきたからである。実際には単純労働に従事する外国人がある一時点をとると十数万人日本に居住しているのに、期限付きであるが故に定住化につながっていない。考えられるリスクは失踪であるが、送出し機関と受入れ機関を通すことでそのリスクを低く抑えている。 第二に、「中国人研修生」といっても、中国人一般が来ているのではない。中国社会のある層が研修生・技能実習生の予備軍となっている。雄武町の事例だけから一般化するのは危険だが、誤解を恐れずに言えば、中国の地方都市の労働者階級および農民の「中の中」から「中の上」に当たる層ではないかと思われる。 第三に、地域を支えてもらっているという意識は、組合指導層と企業主層の一部に強い。普通の企業は最悪の場合、単に安い労働力で助かっているという意識しかない。研修生・技能実習生に対するそのような温度差は、人権無視など問題の発生源になりうる。制度どおりの運用を心がける組合は、そのことをよく理解しているので、温度差を解消するための意識啓発を重視している。組合は「研修・実習」を極めようと考えているというよりも、研修生・技能実習生を確実にキープするためには問題を起こす芽を摘まねばならないと考えているようである。ちなみに研修生・技能実習生の側に地域を支えているという意識はほとんどない。 「国際貢献のための研修・技能実習」という建前を双方が尊重するふりをしながら、片や良質の労働力の確保、片や手っ取り早い貯金という目標に向かって、このなかで得られる互いの利益を最大化するよう、また制度のルールを踏み外さないよう微妙なバランスをとることができるかぎり研修・技能実習制度は機能するだろう。 そのバランスが維持される条件は、研修生・技能実習生が勤勉な労働力として期待に応えることであり、他方日本側が最低限の労働環境・居住環境を保証しながら目標貯蓄額に達するよう研修生・技能実習生に報酬を支払い続けることである。その条件が満たされないとき、制度の円滑な運営は損なわれる。失踪や繰り返し起こる不祥事は、その条件を満たすことが必ずしも簡単なことではないことを示している。
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