本年度、下記の2点で、当初計画を概ね達成できた。(1)残留日本人(1世)を対象とする調査結果の分析完了。この成果に基づき、「血と国-中国残留日本人孤児の肉親捜し」および「祖国と越境-中国残留日本人孤児の永住帰国」の2本の論文を発表した。これにより、昨年度までに発表した諸論文による知見も含め、中国在住時・日本帰国前の残留孤児の生活・意識の実態を歴史的・包括的に解明する作業が完了した。さらにこれらの成果は「中国残留孤児にみる人間発達と公共性」として、韓国ソウル大学日本研究所研究叢書『多文化社会日本とアイデンティティ・ポリティクス』にて韓国語で収録・近刊される。(2)残留日系人(2・3世)を対象とする実態調査の実施。2008年度後半以降の世界的な経済環境の激変もふまえ、50ケースからの面接聞き取り調査を実施するとともに、すでに昨年度までに聞き取り調査を終えた対象者からも、一層詳細な補足調査、および参与観察を実施した。この分析結果は、新聞・テレビ等で部分的に発表した。 また本年度、当初計画以上に、次の3点で成果をあげることができた。(1)ポスト・コロニアルの中国での残留日本人の生活・意識に多大な影響を与えた中国人養父母の実態について、論文「中国残留孤児を育てた養父母たち」を発表し、考察を深めた。(2)論文「中国残留日本人孤児にみる貧困-歴史的に累積された剥奪」および「中国残留日本人孤児問題は解決したのか」を発表し、中国在住時と日本帰国後の残留孤児の生活実態と意識動向の連続性と断絶性を明確にした。(3)論文「本是同根生相煎何太急-永住帰国後の中国残留日本人孤児」(2010年10月刊行予定)を執筆・入稿し、中国での体験が帰国後の生活・意識に刻印する諸影響を考察した。
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